理系研究者のしごとメモ

研究者の仕事や日常の一コマを綴ります。

研究者に大事な能力『小さな変化に気がつく力』

研究者にとって大事な能力はたくさんありますが、私は『小さな変化に気がつく力』がとても重要だと考えています。

優れた研究者は実に細かい差異にまで気が付きます。色が変わった、温度が変わった、感触が変わった、匂いが変わった、といったことを見逃しません。

 

このような変化には原因があります。例えば実験操作や使った試薬、室温、湿度、装置などが挙げられます。原因が特定できなければ、実験の再現性やデータの信頼性に関わります。そして、時にその変化の原因がサイエンティフィックに重要な発見につながることがあります。そのような偶然の発見は「セレンディピティ」とも呼ばれ、いくつもの科学の発展に貢献しました。変化から発見が生まれるのです。

それでは、『小さな変化に気がつく』というのはどういうことなのでしょうか。
私なりにこの能力を分解すると、観察力+記憶力+探求心ということになります。

 

まずは観察力について。

「観察」は見ることだけではなく、聞く、嗅ぐ、触る、味わうことなども含みます。優れた研究者は、非常に細かいことまで観察しています。観察力には感覚が研ぎ澄まされているということももちろん大事ですが、さまざまな視点を持つことの方が重要です。一つの物事や事象に対して、多様な角度が検討すること。これが高い観察力の正体です。

そのため、観察力は才能ではなく、時間をかければ鍛えることができる能力だと私は考えます。観察力を鍛えるには、他の人の視点を知ることが重要です。他人は自分とは異なる物の見方をします。他人が注目していたのに自分が気にかけていなかった部分があれば、その見方を自分の中に取り入れるのです。そうすることで、これまでとは違った視点を獲得することができます。

 

二つ目の記憶力について。

小さな変化に気がつくということは、過去と現在を比較するということです。そのため、記憶力が重要になります。過去というのはすなわち、経験と知識です。多大な努力が必要であるということは否めません。

しかし、全てを正確に記憶することができないことも事実です。そこで重要になってくるのが「記録力」です。記憶を脳以外の媒体にアウトソーシングするということです。優秀な研究者の実験ノートを拝見すると、非常に細かい点まで記述していることに驚かされます。ノートを取ることで記憶に定着するという面もありますが、過去の出来事を記録することで現在と比較しやすくなります。記憶力に自信がない、という方はこまめにメモをとる、写真を撮るなどして、記録する機会を増やしてみてはいかがでしょうか。

 

最後の探究心について。

観察して、過去の記憶と比較して、その変化に気がついたとして、それが重要だと感じなければなんの意味もありません。「面白そうだ」「何かありそうだ」と感じることが大切です。研究は失敗続きで嫌になることが多々ありますが、その中においても前向きに実験結果と向き合う姿勢が研究者には必要だと考えます。

 

小さな変化に気がつく力を鍛えることができるのは研究の場だけではありません。日々生活する中で習得することができます。まずは身の回りから、始めてみることをお勧めします。