理系研究者のしごとメモ

研究者の仕事や日常の一コマを綴ります。

ビジネスに活かせるプロフェッショナルの仕事の流儀【村上春樹編】

スポーツ選手や棋士、デザイナー、科学者など、どのような分野であっても、一流と呼ばれている人々には一流と呼ばれるだけの所以があります。彼ら彼女らは仕事に対して真摯に向き合って独自のスタイルを確立しています。

華々しさのカケラもないような一介のビジネスマンであっても、異業種で働くプロフェッショナルの仕事への取り組み方・思考法・心構えは日常の仕事に大いに活かすことができるでしょう。

今回はビジネスマンが学ぶべき、村上春樹氏の仕事の流儀を紹介します。

参考文献は『職業としての小説家』です。
本書を読んで私が印象に残った言葉を幾つかピックアップし、私なりの解釈を加えてみました。

職業としての小説家 (新潮文庫)

職業としての小説家 (新潮文庫)

 

目次

「自分はその時点における全力を尽くしたのだ」

村上氏は自分の作品を読み直すことはほとんどないそうです。
過去の執筆したエッセイと同じ内容のエッセイを書いてしまうこともあるとか。
その理由は、読み返すと欠点が目についてしまうためだと述べています。

しかし、その作品を書いた時点ではそれ以上うまく書くことはできなかった、と振り返ります。
些細な表現を変えたり、同じ文章を何度も読み返して響きを確認したり、そういった作業をひたすら繰り返す。
「やるべきことをやった」という手応え。
後日手直ししたいと思うことはまずないそうです。

ビジネスマンも日々の仕事に対して妥協せず、「今の全力を尽くした」という毎日を送る事が必要なのではないでしょうか。

 

「頭の回転がそんなに速くない」

村上氏は自身のことを、頭が切れるわけではないし天才ではない、と述べています。
また、学校の勉強も得意ではなかった、とも述べています。
おそらく、謙遜ではなく本当にそう思っているのでしょう。

頭の回転が遅いということは、一般的には「短所」だと捉えられるようなことで、目を背けたくなる事実だと思います。
しかし、村上氏は自身の性質を正確に冷静に分析しています。
それが、以降で述べるような独自の執筆スタイルの確立に繋がっています。

良い仕事をするには、まず自分を見つめること。
自己分析が成長の第一歩です

 

「タイム・カードを押すみたいに、一日ほぼきっかり十枚書きます」

村上氏は規則性を重要視しています。
調子がいい日でも十枚でやめるし、調子が悪い日でもなんとか十枚書くそうです。
そんなことは芸術家のやることではなく工場の仕事だ、という批判を受けたことがそうですが、特に意に介していません。

そもそも小説家が芸術家である必要などなく、まず自由人であるべきだ、と述べています。
そして、自分なりの固有のシステムを注意深く整備して維持してきた、ということを誇っています
自分の「実感」を信じること。たとえ周りがなんと言おうと関係ない、と村上氏は語っています。

他人の意見に耳を貸すな、という意味ではありません。
長編小説を書くとき、他人から指摘された部分は必ず書き直すそうです。
ただ、まず自分を信じる、ということが大事であるということではないでしょうか。

 

「作家は贅肉がついたらおしまいですよ」

村上氏は毎日水泳や走ることを習慣にしています。
世間的に小説家は不健康な印象が強いようで、「健康だといい小説が書けない」と揶揄されたこともあるそうです。
太宰治なんて、不健康な作家の代表ですね)

しかし、村上氏の考え方は違います。
小説を書き続けるのはタフな作業であるため、強固な意思が必要になります。
そのため、生き方そのもののクオリティが問題になってきます。
魂を収める「枠組み」としての肉体をある程度確立させ、それを一歩づつ着実に前に進めていくことが必要だ、と言うのが村上氏の考え方です。

村上氏は虫歯が痛かったら作業に集中できない、というわかりやすい例を挙げています。
どんなに優れた才能を持ち、素晴らしい構想があっても、虫歯が痛かったら執筆が捗るわけもありません。

日々の仕事を最高のものにするために、身体の手入れを欠かさないこと。
ビジネスマンも忘れてはならないことだと思います。

 

まとめ

ノーベル賞候補にも挙げられる村上春樹氏の仕事への取り組み方を学んでみて、プロフェッショナルとしての高い自負が感じられました。
文章を書くということ以外の時間を非常に大事にしている、というのが私が強く印象に残ったことです。

今回参考にした『職業としての小説家』は村上氏の自伝的エッセイです。
長編小説の書き方や文章を書き続ける姿勢のほか、文学賞についてのエピソードなど、今まで明らかにしていなかった舞台裏も語られており、とても興味深いです。
ぜひご一読あれ。